最近、ニュースや新聞で「MaaS(マース)」という言葉を見かける機会が増えてきました。
MaaSとは、「Mobility as a Service」の略で、「バス、電車、タクシー、シェアサイクル、運転代行といった様々な移動手段を、一つのサービスとして統合する」という考え方のことです。
これまでは、目的地に行くために個別に時刻表を調べ、それぞれの窓口でチケットを買い、バラバラに支払いを行ってきました。MaaSが実現すると、スマートフォンのアプリ一つで「検索・予約・決済」が完結し、まるで一つの乗り物に乗るかのようなシームレスな移動が可能になります。
欧州で始まったMaaSですが、現在日本でも様々な場所で、サービスが開始されたり、実証実験が行われています。
しかし、日本は地域によって「公共交通が発達した都市部」もあれば「車が不可欠な地方都市」もあります。そのため、MaaSの形もその土地の課題に合わせて多様に進化しています。
今回は、初めてMaaSという言葉に触れる方にも分かりやすく、現在日本国内で展開されている主要な事例を「地域特化型」と「全国・プラットフォーム型」の2つに分けてご紹介します。
1. 【地域版】自治体・交通事業者が主導するエリア特化型MaaS
特定のエリアが抱える課題(渋滞、高齢化、観光客の回遊性)に特化した、地域密着型の事例です。
① ぐるっと北海道(北海道)
【紹介】 広大な面積を誇る北海道において、点在する観光地や生活圏を繋ぐための広域MaaSです。特に公共交通の維持が難しいエリアにおいて、移動の利便性を維持し、車なしでも旅を楽しめる環境作りを進めています。
- 特徴: 豪雪地帯という特性を考慮し、冬場の移動手段確保や、JR・バス・タクシーの広域連携を重視しています。
- 展開エリア: 北海道全域。
- 機能: デジタルフリーパスの販売、観光施設との連携チケット、オンデマンド交通の呼び出し。
公式サイト: ぐるっと北海道
② MOBIRY / モビリー(広島県)
【紹介】 広島電鉄を中心に、路面電車、バス、フェリーといった多様な公共交通をデジタルで統合したサービスです。紙の切符からデジタルへの移行を強力に推進しています。
- 特徴: 観光客だけでなく、日常的に路面電車を利用する市民の利便性も考慮した、実用的で使いやすいシステムが特徴です。
- 展開エリア: 広島市を中心とした広島県全域、および瀬戸内エリア。
- 機能: デジタルチケットの購入・利用。スマホ画面提示で電車や宮島フェリーに乗車可能。
- 公式サイト: MOBIRY
③ KANSAI MaaS(関西エリア)
【紹介】 関西の主要鉄道7社が結集した、国内最大規模の都市型MaaSです。2025年の大阪・関西万博を見据え、会社ごとに分断されていたサービスを一つのアプリに集約しました。
- 特徴: 競合する鉄道各社がデータ連携に合意し、共通の決済基盤(QRコード等)を構築した大規模プロジェクトです。
- 展開エリア: 大阪、京都、兵庫、奈良、滋賀、和歌山の2府4県。
- 機能: 鉄道7社をまたぐ経路検索、共通QRコードによる乗車、万博シャトルバス予約。
- 公式サイト: KANSAI MaaS
④ 伊豆navi(伊豆エリア)
【紹介】 東急、JR東日本、JR東海が連携した観光特化型MaaSです。「駅から先の足(二次交通)」が不便という伊豆観光の弱点を、デジタル技術で解消しようとしています。
- 特徴: 観光施設の予約と移動手段の決済をセットにすることで、旅の計画から実行までをスマホ一つに集約しています。
- 展開エリア: 静岡県伊豆半島全域。
- 機能: 観光・交通のセットチケット販売、レンタサイクルやタクシーの呼び出し機能。
- 公式サイト: 伊豆navi
⑤ CentX / セントエックス(中部エリア)
【紹介】 名古屋鉄道(名鉄)が提供する生活密着型MaaSアプリです。移動手段だけでなく、沿線の商業施設や生活サービスと深く連携し、地域住民の日常を便利にすることに重きを置いています。
- 特徴: 鉄道会社ならではの「沿線価値の向上」を目的としており、クーポンやイベント情報など、移動の目的地となる情報が充実しています。
- 展開エリア: 愛知県、岐阜県を中心とした名鉄沿線エリア。
- 機能: リアルタイム運行情報、タクシー配車、沿線クーポン、デジタル定期券の発行。
- 公式サイト: CentX
2. 【広域版】全国・広域エリアをカバーするプラットフォーム型MaaS
① my route / マイルート(トヨタ自動車)
【紹介】 自動車メーカーであるトヨタが提供する、多様な移動手段の組み合わせ(マルチモーダル)をコンセプトにしたアプリです。車と公共交通を共存させる新しい移動の形を提案しています。
- 特徴: 全国各地の自治体や交通事業者と提携し、その地域のMaaS窓口(ポータル)として機能する汎用性の高さが強みです。
- 展開エリア: 福岡、横浜、愛知、富山など、全国各地の提携エリア。
- 機能: 駐車場予約、シェアサイクル、タクシー、レンタカー、公共交通の統合検索。
- 公式サイト: my route
② tabiwa by WESTER(JR西日本エリア)
【紹介】 JR西日本が展開する観光特化型広域MaaSです。独自のポイント経済圏(WESTERポイント)と結びつくことで、お得に、そして便利に旅ができる仕組みを作っています。
- 特徴: 観光地ごとの「周遊パス」が非常に充実しており、広域なエリアを移動する旅行者にとっての必須ツールとなっています。
- 展開エリア: 北陸、瀬戸内、中国地方を中心としたJR西日本管内。
- 機能: デジタル周遊パスの販売、観光スポット予約、ICOCA連携によるポイント還元。
- 公式サイト: tabiwa by WESTER
③ TOHOKU MaaS(東北エリア)
【紹介】 JR東日本が東北6県という広大なエリアで展開するMaaSです。人口減少に伴う公共交通の維持という課題に対し、オンデマンド交通などを組み合わせて「持続可能な移動」を模索しています。
- 特徴: 観光客だけでなく、地元住民の通院や買い物など、生活維持のための「足」としての役割も期待されています。
- 展開エリア: 青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島の東北6県。
- 機能: 鉄道、バス、シェアサイクル、レンタカー、オンデマンド交通の統合検索・予約・決済。
- 公式サイト: TOHOKU MaaS
3. まとめ:MaaSの多様性が日本の未来を作る
全国の事例を見て分かる通り、MaaSには「たった一つの正解」はありません。それぞれの地域が、それぞれの「不便」を埋めるために、最適な技術を組み合わせています。
春の訪れとともに、皆さんの街や旅行先にあるMaaSをぜひ一度体験してみてください。移動がサービスとして繋がったとき、私たちの暮らしは今よりもずっと自由で豊かなものになるはずです。




